30代になってから、周囲に今の仕事を続けるべきか、本当にやりたい仕事は何かと悩む人をよく見かける。
特にフリーランスのクリエイターたちで、この先同じ働き方ができるのかと、強く不安に思う姿を目にする。
僕自身も、仕事のあり方や、音楽のありかたが大きく変動している今の時代をどう生き抜いていくかを、毎日考えている。
今日は、そんなわれわれを力強く応援してくれるヒーローを紹介したい。

それが『仮面ライダーゼロワン』だ。
2019年〜2020年に放映された、仮面ライダーシリーズ34昨目の作品である。
年号が令和に変わって、制作体制を一新した作品で、プロデューサは一般公募により募集。企画書のコンペによって、若い世代のプロデューサーに交代した。
この作品では「大人の視聴者」を意識した、新たな方向性が打ち出された。

仮面ライダーシリーズで、単に正義と悪が戦うだけでなく、時代を反映する作品である。
このゼロワンのテーマは、「AIと仕事」。
舞台はAIが搭載された人型のお仕事ロボットが普及した世界で、そこで働く大人たちの姿を描く。

主人公の飛電或人は、今まさにお笑い芸人の仕事をクビになったところから話が始まる。
AIの方が面白いという理由で、仕事を取られてしまったのだ。
この世界観、リアリティがあるのは国立情報研究所の人が監修・企画で協力していて、今後AIが普及したときに仕事がどうなるのかをきちんと構想している。
そして、まずとって変わられるのがエンターテイメントの仕事というのも、すごく面白い。

そして彼自身は運命に導かれ、そのAIを作っている会社の社長に就任する。
実はこの社会は、大きな問題を抱えていた。
AIが働くことに異議を唱えるテロ組織の存在だ。
AIを作る会社は当然、テロ組織と対立する。
それと戦うため、主人公の社長だけが仮面ライダーに変身できる。
彼はもともと、みんなを笑顔にしたかったらお笑い芸人をやりたかったのだ。
そして、運命に導かれた今、みんなを笑顔にできるならと同じ思いで仮面ライダーに変身して戦う。
描かれるのは、やらされてる仕事じゃなくて、自分で選んだ仕事に邁進する姿。
それに、彼自身お笑いも諦めていないようで、戦いの合間にきちんとギャグを挟む。
まさに、仕事という、やりたいこととやるべきことの間のバランスをちょうど見つけたばかりの人と言ってもいいだろう。
彼は、自分にしかできない仕事として、会社と社会を守るため、仮面ライダーに変身する。

そんな主人公にも仲間がいるんだけど、それぞれ仕事に問題を抱えている。
例えば、小さい頃のトラウマでワーカーホリックになってしまった人。パワハラ上司に従って本意でない仕事をする人。

戦う相手は、AIに反対するテロ組織だ。
AIの普及した社会と仕事のあり方を、破壊しようとたくらむ。

このように、この作品では仕事とは何か、働く理由とは何かが問い直されるドラマが展開される。
登場人物全員が、仕事観を深めてゆき、やがて生きることそのものを問うてゆく。

大人の視聴者としては、自分に近い境遇のキャラクターがどんな運命を辿っていくのかが気になるところ。

特に、大人視聴者の共感を呼んだエピソードを紹介する。
刃唯阿という仮面ライダー史上初の、序盤からレギュラーとなる女性ライダーだ。
彼女は、仮面ライダーという仕事を、パワハラ上司の命令でやらされていた。
しかし、主人公たちと出会って、だんだんこの仕事も悪くないと思い始めた。
やっとやりがいを見つけた…と思ったら、今度はパワハラ上司の辞令で怪人にされてしまう。
そんな様子を見て、彼女の仲間は「本当にやりたいことはなんだ!?」、「お前の夢はなんだ!?」と問い詰める。
そこで彼女は「夢、夢うるさい!」とぶちギレ、怒りの辞表パンチをパワハラ上司に食らわせることになった。
この役者さんは、朝日新聞でも取り上げられた。
彼女を見て、今の自分というものと重ねて、勇気づけられたりとか問題意識を持った大人たちがすごく多かったようだ。そこも、この作品のおすすめのポイントだ。

さらにこの作品、コロナ緊急事態宣言の影響で5〜6月の間、放送が休止した。
これは、シナリオを短縮するだけに止まらない大問題だ。
なぜなら、仮面ライダーは子供におもちゃを買ってもらうことで成立するビジネス。クリスマスと、番組がクライマックスになる5〜6月ごろは、毎年特に魅力的なアイテムが発売する恒例の時期なのだ。
そして、当然おもちゃの生産・流通スケジュールは決定している。
子供たちに魅力を感じてもらうため、本来であれば、本編はどんどんパワーアップしていくのだ。
ただ新しいアイテムが出てきても、子供は魅力を感じない。だから、強さに説得力を持たせるための段取りが非常に大切なのだが、この段取りに時間が割けなくなったことでシナリオの先行きも、おもちゃの売上も予想がつかなくなってしまった。

放映当時は、どうなるのか、本当に話が終わるのかすら、予想がつかなかった。
役者、監督、プロデューサの緊張感が、画面や当時の資料からも伝わってくる。

でも、結果としてこのような事態が、本作品のテーマである「仕事とは何か」ということに対して、一番のメッセージを発信することになったと僕は思う。
なぜなら、こんな未曾有のきつい状況でも仕事を投げ出さず、できうる限り最高の結果を出そうとする大人たちの情熱が、そこにあったからだ。

諸々の事情からシナリオは大幅に変更されて、ウルトラCのやり方で決着をつけた。
ネタバレを避けるが、最終回をみた僕は「ちゃんと着地できた!」と、とても感動した。
制作陣に対する称賛の想いが生まれたし、こういう製作陣だからこそ、「仕事」というテーマの話を作ることができたんだなぁと心から感動した。

今の仕事に疑問を持っていたり、自分の能力・やりたいことを貫くことに迷いがある人は、ぜひ作品を見て欲しい。
そして、製作者の仕事をめぐる一連のことを追体験してほしいなと思う。
できれば、製作者のブログを読んで、そちらも並行して見ていただけるとより感動できると思うので、リンクを貼っておく。

仮面ライダーゼロワン

Next
第一回 JUN MUSICが推す音楽賞 結果発表(#全員参戦!)