JUN MUSICの片倉です!
「呪術廻戦」「からかい上手の高木さん」「東京卍リベンジャーズ」など 数々のヒット作を手がける劇伴作曲家、堤博明さんにインタビューさせていただく企画。 後半は「音楽業界入門編」!!どうすれば劇伴作曲家になれる?作曲家を目指す人は、音大に入ったほうがいいのか?
劇伴作曲家を目指す方はもちろん、アニメの音楽が好きな方は必見です!ぜひ前半・後半合わせてご覧ください。
1985年 東京都生まれ。国立音楽大学音楽文化デザイン学科卒業。14歳でギターと出会い、音楽の道を志す。
高校時代に「リットーミュージック主催 第一回誌上ギター・コンテスト」 にてグランプリを受賞。その後、大学入学を機にギターサウンドのみにとらわれない楽曲制作に 傾倒してゆく。 多くの楽器演奏やコーラスを自身で手掛け、生演奏とトラックメイキングそれぞれを活かした色彩豊かな楽曲作りを得意とする。
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片倉 堤さんは、在学中はギタリストとして活動されていましたよね。卒業後、どんな経緯で作曲家になったんでしょうか?
堤 卒業した後、Shikinamiというバンドでギターを弾いてました!バンドは現在も継続して活動中です。25〜26歳ごろに、ご縁があってミラクル・バスの作曲家になったんですけど……
片倉 詳しく聞かせてください!
堤 学生の頃から、横山克さんに劇伴のギター演奏の仕事を振ってもらっていたんです。それでたまにミラクル・バスの事務所に顔を出していたんですが、ある時ディレクターさんと立ち話していたら「君、作曲できるの?」と言われて。「はい、できます!」と答えたのがきっかけですね。その時は劇伴っていう言葉も知りませんでした(笑)
最初は先輩作曲家さんのお手伝いとして、 編曲やアレンジをやりました。その後、だんだん作曲の仕事を任されるようになって、本格的に劇伴作曲家の道を歩むことになりましたね。
小森 それはイレギュラーなケースだね!
片倉 マネージャーの小森さん。ミラクル・バスでは、どんな経緯で新人作曲家さんが入ってくるんですか?
小森 多いのは所属作曲家さんやディレクターが、見込みのありそうな人を紹介するパターンかな。その場合、まずはお試しで、歌もののコンペなどをやってもらうことが多いね。弊社WEBサイト でもクリエーター募集の門戸を開いているので、そこから応募されてくる方もいますよ。
劇伴作曲家に必要な能力、教えてください!
片倉 「本気で劇伴の仕事をしたい」という人はまず、何をやるべきでしょうか?
小森 何をすべきか……という話をする前に、まず言いたいのは「大変だよ」ということ。1ヶ月に40〜50曲かけますか?
片倉 1ヶ月に40〜50曲書くんですか!?!?
堤 書く時は、書きます(笑)
小森 若い人に言いたいのは……みなさん、簡単に「劇伴作曲家になりたい」と言うんだけど、 すごく大変な仕事なんです。高い能力が問われるし、スタミナも必要。新しい作曲家さんは必要だけど、募集のハードルを上げざるを得ないんです。
片倉 たとえば、読者の方からこんな質問が来ています。
「劇伴作曲家になるため、何か一つ学ぶとしたらこれといったものはありますか?」
小森 オールマイティにできないといけません。一つのジャンルに長けているだけだと、チャンスは少ないのが正直なところです。あらゆるジャンルの音楽ができて、その中に得意なジャンルがあるというのがスタートラインだと思います。
堤 たとえば「悲しい」という感情にも、いろんな種類の悲しさがあるわけで。それを音楽として表現するには、幅広い知識と経験が必要になってきます。そして最も重要なのは、コミュニケーション能力です。
堤 ある場面でどんな感情が要求されるのかを、作曲家が勝手に解釈して好きな曲を作ってはいけませんよね。
監督や音響監督がどんなイメージを持っているのかを聞き、一緒に制作をする音楽プロデューサーやディレクターとも音楽的な解釈や方向性のすり合わせをする。相手が何を言っているか、何を言わんとしているのかをちゃんと汲み取る力、キャッチボール力が大切です。
片倉 あらゆる社会人にとって重要な能力ですね。打ち合わせで、特に気をつけていることはありますか?
堤 駆け出しの頃は、打ち合わせで音楽専門用語を使ったりしていたんですが、最近は滅多に使わなくなりました。
例えば、色彩豊かな印象よりは、力強さを出していきましょう!という方向性を共有したい時に「div.ではなくtutti.でやってみます」と言っても、わかる人にはわかるという様な状態になってしまいますので。
レコーディング現場ではもちろん専門用語を使うこともありますが、目指したい表現を共有出来るように、具体的な手法よりも、わかりやすくイメージしやすい言葉を選ぶようには心がけています。相手に寄り添っていかに自分の考えをを共有するかが大事です。
音大に入った方がいいんですか?
片倉 ここで、フォロワーの方からの質問をご紹介します。
「作曲家になるために、音大に入る必要はありますか?」
この質問、学生の方から本当によく寄せられます。実際、どう思われますか?
堤 音大に入るのは近道だと思います。加えて、僕にとっては音大での人との出会いが本当に大事でした。横山さんと出会えていなかったら、ミラクル・バスに入れていたかわからないですからね。
器楽法と呼ばれる、さまざまな楽器の使い方についての知識は、実は音大を出た後に独学で学んだんです!音大にいる間は、ありとあらゆるアカデミックな授業の単位を落として落第してきました……自分はギタープレイだけでやっていくと思っていたので、必要性を感じていなかったんですよね。
でも、仕事で作曲するようになって、どうしても楽器について知る必要が出てきて……まずは演奏者に「この譜面は演奏しやすいですか?」と相談したり、自分から教えを請いました。これは音大に通うのと同じくらい、もしかするとそれ以上に身になる貴重なレッスンでした!
同じアニメの音楽を二人で担当するような場合は、その人のディレクション、譜面の書き方、アレンジの方法論などを間近で経験できます。自分はギタリストとして他の作曲家の仕事に関わることがあるので、その中で他の作曲家の技法を吸収してきたということも大きかったです。「この人の悲しみの表現は、こういう感じ」という風に。僕は、現場で鍛え上げられてきたような感じですね。
音大に入らなかったとしても、目標と向上心があれば、道はどこからでも通じていると思います。音大を出てないけど素晴らしい作曲家はたくさんいます!
片倉 なるほど〜〜〜〜!! 小森さんの立場からはどう思われますか?
小森 音大は行った方がいいですね。基礎的な部分を勉強できますから。独学でもできないことはないですが、相当努力がいると思います。ミラクル・バスにもバンド出身の方はいますが、音大卒の割合が多いですね。
片倉 作曲家になるまでの道筋を、リアルに解説いただきありがとうございます。
さて、ここからは「プロの劇伴作曲家になると、どんな生活になるのか?」実際のスケジュールや段取りについて、お二人から語っていただいた内容をまとめてみたいと思います!作曲家の毎日を想像しながら読んでみてください。
劇伴 受注から納品まで
①アニメ制作会社から案件の話が来る
小森 最近はこの段階で作曲家さんを指名されることが殆どです。スケジュールがNGだった場合は別の方を提案します。フリー指名もたまにありますね。
②音楽打ち合わせ
堤 アニメ監督、音響監督さんとの初回打ち合わせです。「音楽メニュー」をもらっ て、それをもとに具体的な音楽イメージを相談します。
架空の音楽メニュー。実在のアニメとは関係ありません。
③作曲 / テーマ曲
堤 最初にテーマ曲を作ることが多いです。テーマ曲はオーケストラなど大編成の楽曲が多く、曲を書くのに時間がかかります。1週間くらい欲しいところですが、時間がなければ2〜3日でやることも。曲が降りてくるまでは、とても苦しい時間です……できた曲は一発OKすることもあり、修正や議論を重ねることもあります。
④作曲
堤 優先順位の高い楽曲から作っていきます。PV用の楽曲は、プロモーションのスケジュール 上、先に作る必要がありますね。③④の合計40〜50曲を、だいたい1ヶ月で製作します!
最近はある程度曲を作りためて、まとめてチェックしてもらうことが多いです。その方が劇伴全体のアプローチが見えやすいと思うので。送った曲に対して、監督から修正指示が来れば、その対応をします。
片倉 クライアントワークですから、全曲一発OKにはならないですよね。修正対応も考えると、実質的には納品数より大きい制作工程になるかと思います。
⑤録音準備
堤 全部の曲が完成したら、いよいよ録音です!打ち込みメインで制作する案件も、大規模に録音する案件もあり、アニメの制作規模によりけりです。録音の一週間前には、演奏者さんに渡す譜面を用意するなど、すべての準備を完了していたいところです。譜面は自分で作る作曲家もいますが、僕の場合はアシスタントさんにMIDIを渡して譜面化してもらっています。
⑥録音
堤 最初にお話をいただいてから、ここまで2ヶ月くらいかかっています。全ての準備が整ったらスタジオを選定します。空き状況や、場所による響きの違いを考えて、どこで録音するかを決定します。壁の材質で音色が変わってくるので、「この曲はあのスタジオが合いそうだな」なんて考えますね。
ほとんどの場合、録音にはあまり時間をかけられません。短時間のうちに多数の曲を録音するので、いかに効率よく演奏指示を伝えるかということが大切になってきます。
⑦録音チェック・追加録音
堤 録音データをミックスエンジニアさんに回し、ミックスの工程に進みます。僕の場合は、録音したセッションデータを一度家に持って帰り、一通りチェックします!テイクをより良いものに差し替えたり、ノイズがあればミックスエンジニアさんへの申し送り事項にしたりします。
そして僕の場合、ギタープレイヤーでもあるので、ギターパートの録音は家で作業します。
一人でじっくりと、細部まで作り込みます。調子に乗ってると40曲録音ということになったり……(笑)ここで作曲家としての仕事はひと段落ですね。
⑧ミックス・マスタリング
堤 ミックスは全曲細かくチェックをします。その段階でアイディアが出てくることも多く、音楽をより作品に寄り添ったものに仕上げるタイミングになります。
マスタリングに関しては、エンジニアさんにお任せする場合もありますし、立ち会って確認をする場合もあります。音楽をもう1段階魅力的なものにする大切な工程です。
⑨納品
片倉 これにて納品。2ヶ月間、お疲れ様でした!!
堤 そう言っている間に、もう次の仕事が始まってます(笑)
片倉 なんと……複数の案件が並行することもあるんですか?
堤 マネージャーさんがスケジュールを管理して仕事を振ってくださるので、被っても2本くらい ですね!
(曲数やタイミングによっては、更に多い数の作品を並行して進める場合もあります)
片倉 実に過酷なスケジュールですね。劇伴作曲家志望の方は、能力・体力・性格を合わせて現実的に検討すること が必要だと思います。こんな作業の上に成り立っているのかと思うと、ぼんやりアニメの音楽を聴いていられない気持ちになりますね……
堤 僕も横山さんの仕事っぷりをみて「俺には無理だ」と思いました(笑)一回業界に飛び込んでみて、周りに迷惑をかけるかもしれないけど、苦しみを味わうのも大事かもしれません……
今日はアニメの話をしましたが、ドラマや映画はまた制作スタイルが変わってくるので、いろんな経験をすることが必要です。僕もまだまだ勉強しないといけないなと思います!
小森 こういった状況ですから、先ほども言った通り、新人を起用するというのはなかなか大変なことなんです。仕事を振って途中で「できない」となるのが本当にリスキーなので、堤くんのようにメインの作曲家さんの補助という形から、徐々に慣れていってもらいます。案件によっては、途中で音楽の方針変更があったり、監督との議論を重ねたりするケースもありますから、それを打ち返す力というか、根性がないと劇伴作曲家は難しいですね。
片倉 最後に、これから劇伴作曲家を目指す若い方へ向けて、メッセージをいただけますか?
堤 好きという気持ちが一番大事だと思っています!音楽への関わり方は人それぞれで、自分が楽しくできる道が一番良いと考えています。僕は、楽じゃないからこそ、思いっきり好きだからこそ、この仕事を続けられています。
ぜひ、ジャンルやプラグインに対する固定観念を取り払ってみてください。これとこれを試しに組み合わせたら「こういう印象になる」と感じることが大事です!
映像・セリフ・効果音・そして音楽が、人の心にどう作用するかを意識してみて欲しいです。 一つの音楽を突き詰めることも大事だけど、その音がどうやって聞こえるのかを考えると、今やっている音楽が違う広がり方をすると思います。劇伴作曲家を志すなら、自分が作ったものが、人とどういう関わり方をしていくのかを大切にして欲しいですね。
片倉 ありがとうございます。小森さんはいかがですか?
小森 苦労は買ってでもしなさい!
片倉 楽してお金持ちなんてことは一切ないっていうことですね……
堤 楽じゃないからこそ、続けるために好きという気持ちが一番大切ですね!
いかがでしたでしょうか?音楽業界に入る方法、結論は「音楽を好き」という気持ちの大切さににたどり着きました。本当に好きでなければ、何事も続かないというのは肝に銘じたいことですね。
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