JUN MUSICの片倉です!
みなさんは「劇伴」(げきばん)という言葉をご存じでしょうか?
「劇中伴奏音楽」の略で、アニメや映画などのBGMを指す業界用語です。
今日は「呪術廻戦」「からかい上手の高木さん」「東京卍リベンジャーズ」など、
数々のヒット作を手がける劇伴作曲家、堤博明さんにインタビューさせていただきました!
前半となる今回は「作曲編」!アニメの音楽がどんな風に作られるのか?
「からかい上手の高木さん」を題材に、堤さんの方法を教えていただきます。
後半の「音楽業界入門編」(6月第3週公開予定)では、
どうすれば劇伴作曲家になれるのか?業界の内幕が語られます。
劇伴作曲家を目指す方はもちろん、アニメの音楽が好きな方は必見です!
ぜひ前半・後半合わせてご覧ください。
Hiroaki Tsutsumi
作曲 / 編曲 / ギター
1985年 東京都生まれ。国立音楽大学音楽文化デザイン学科卒業。14歳でギターと出会い、音楽の道を志す。
高校時代に「リットーミュージック主催 第一回誌上ギター・コンテスト」 にてグランプリを受賞。その後、大学入学を機にギターサウンドのみにとらわれない楽曲制作に 傾倒してゆく。 多くの楽器演奏やコーラスを自身で手掛け、生演奏とトラックメイキングそれぞれを活かした色彩 豊かな楽曲作りを得意とする。
▼青字部分をクリックすると、詳細な解説が開きます▼
片倉 Twitterで堤さんへの質問を募集したところ、たくさんの応募がありました。
『劇伴を作曲するときに、初めに使う楽器は何が多いでしょうか。堤さんの場合はギターを弾きながら考えることが多いのでしょうか?』
堤 最初に使う楽器は、作曲家としてのキャリアの中で変わってきてますね。 自分はギタープレイヤーの活動がプロとしてのスタート地点だったので、初めの頃はギターで作曲することが多かったです。
ギターの場合、常にコードの意識があります。C、Dm、Emといったコードの上にメロディをつける形で作曲するんです。最近はコードの意識が薄くなっていて、モチーフを一個作って、それに対して和音やリズムをどう当てていくか?という風に考えます。昔はコードに合わせてモチー フを変えていましたが、最近はコードに多少ぶつかっても行ってしまいます。
片倉 作曲家やDTMerの皆さんから、音楽のアイディアを思いついても、それをコードやスケー ルといった音楽理論と、どう折り合いをつけるのかわからない、という悩みをよく聞きます。
堤 ロジカルなことも大事です。理論的におかしいからここを変えようかな……というような悩 みを持つことは、僕もありますね。ただ、僕は音楽を聴く人への「メッセージ」「伝えたいこと」を一番大事にしています。理論的に正しくても、伝わらなければ意味がないですからね。人 に伝わる形にするために、音楽理論も活用できればいいなと考えています。
片倉 アニメの中で「メッセージ」をどんなやり方で「伝える」のか、ぜひ教えてほしいです!
音楽でメッセージを表現
堤 僕が音楽を手がけた、TVアニメ「からかい上手の高木さん」の例を挙げてみますね!
最初に出てくるリコーダーのメロディ(パッパ〜パ パッパ〜パ パッパ〜パパ〜パパ〜パ♪) で、3連の跳ねた感じ。音色とメロディとリズムの組み合わせが、この曲のキーポイントです。
(注:リンク先のSpotifyの試聴では該当箇所が聴けません!ぜひSpotifyアプリ上、あるいはサウンドトラックでご確認ください🙏)
この曲を当てるキャラクターは、3人の仲がいい友達です。 3人がいろんなことをやるんですけど、常にゆるい雰囲気で、ドラマチックにはなりません。何気 ない日常のイメージで、この曲が流れたら3人が出てくると、すぐわかることを大事にしました。 そして中学生の話なので、ちょっとでも大人っぽさが出ないように気をつけています。
さて、次は同じキャラクターの、夜の林間学校のシーンの曲。メロディは変えずに、編曲や音色によって景色を夜にしています。テントの中から、先生に見つからないよう、こっそり懐中電灯で合図を送り合う場面です。
片倉 これは……!!夜になりましたね!!
堤 そうなんですよ(笑)楽器の特性、和音感…いろんな要素が絡んでいるんですけど、こんな風にすると夜になるんですよね。
片倉 僕はCM音楽プロデューサーなので、クライアントが必要としている要素、たとえば「ファ ミリー向け」といったキーワードを、どんな音楽で表現できるか?というロジックを重要視する んです。「子供の合唱と大人のコーラスを組み合わせて、ファミリー感を表現しています」みたい に言葉で説明できることが大事。でも、これは音楽の様々な要素の複合が、あるイメージを表現しているんだと感じました!
堤 この曲で言うと、ストリングスのピチカートの表現も少しひそやかな感じにしているんです。 消灯時間を過ぎていて、先生に見つからないように、こっそり楽しいことをやるドキドキ感をピ チカートで出すイメージ。細部で表現してますね。
片倉 楽しい曲だからマリンバとか、バトルの曲だからロックとか……そういう表面的なイメー ジだけでなく、「音楽全体でメッセージを伝える」ことがよくわかりました。
堤 いろんな作曲家さんが悩むポイントだと思います。映像や演技とあわせて、情景の空気感を 表現するのが劇伴の役割だと思うので、温度感の調整にはいつも悩みますね。
演奏者さんには、ざっくりとニュアンスを説明して演奏してもらいます。たとえばこのピチカート は、譜面にpp pizz. Cresc.といった指示を入れてますが、日本語で譜面に指示を書くのもいいと 思いますね。「夜、テントで隠れて懐中電灯を照らすように」なんて!タイトルについても、ただ 「M4」と書くのか、曲名をつけるのかで全然違ってきます。
片倉 なるほど〜。演奏者さん一人一人が、役者になって演じてくれているような感じですね。
堤 まさにその通り!劇伴の場合、正しく綺麗に演奏することが正解ではない場合もありますから、演奏者さんとのコミュニケーションを、短い時間で効率よく行う工夫をしています。
これが劇伴の奥義!
堤 これは、同じ曲の夏バージョン。
同じ3人組の、夏祭りの場面です。 夏祭りということで、お囃子を入れてみたくなったりするんですけど、それは無し。しっとりし た「心情」を表現しています。
片倉 フルートが、尺八のようなトリルを入れてますね。
堤 そうそう、演奏者さんにも意識してもらってます!
自分の好きなアプローチなんですけど、「和」を表現するとき、尺八そのものを入れず、別の楽器 で尺八っぽく吹いてもらう、ということをします。尺八を使うとイメージが限定されてしまうの で、幅を持たせたいということですね。
片倉 なるほど、尺八を使うと記号性が強くなってしまうということ?
堤 そうなんです。尺八を使うと確かに「夏感」が出ます。そういう曲が必要なときもあるんです けど、この場面でアニメを見ている人に注目してほしいのは「キャラクターの心情」なんです。尺八を使うと、夏祭りという「状況を説明する」音楽になってしまうと思って。
片倉 すごい!伝えたいメッセージを前提に、音楽表現を細かく調整する。これは劇伴の奥義ですね。こういう方法を、どうやって習得されてきたんですか?
堤 音楽以外の、ありとあらゆる経験が生きてます。本を読んだり、現場でいろんな人の話を聞 いたり、映画やドラマを見たり……カメラと人物の距離や、映像の色合いに対して音楽がどうつ いているのかを意識して観たことがあって。照明の色合いで画面が青みがかっている時と、赤く見えている時のストリングスから受ける印象には違いがあったりします。
片倉 面白〜〜い。ところで劇伴は、映像を見ながら曲を作るんでしょうか?
堤 TVアニメの場合、原作・コンテ・シナリオから場面を想像して音楽を作る時と、実際に映像 を見ながら作る時があります。映像を見られる場合、カメラアングルがアップなのか引きなのかで、つけるべき音楽が変わってきたりします。
堤 キャラクターがアップになっている場合は、その人の心情や、ここから起きるサスペンスのドキドキ感を表現したり。引きの場合は状況に音が当たることが多いですね。
さらに音像によっても意味合いが変わってきます!キャラがアップの時に、遠い音を使ったら 「何かが始まる感じ」を表現できます。近い音でやると、その人の思いの強さとか、主張のしっ かりした感じになるかな。あるいは、残響の感じによって「狭いところにいる」といった情景を 表現したりもします。この辺、効果音や環境音に、どんな風に音楽を寄り添わせるかも考えなくてはいけないですね。
ただ、もちろん正解があるわけではないので、それぞれ自分の中にある経験や感覚、オーダーされた内容から、
その作品に対する音楽のあり方を探ります。
片倉 ただ音楽をつくるだけでなく、音楽によってアニメを表現するのが劇伴作家の仕事なんですね!
日々、音と音楽に注目しながら感情豊かに生活することが大事そうだな感じました。
そうそう、質問と一緒にファンレターも来ています。
『私は趣味ではありますが、堤さんに憧れてたまに作曲をしています。いつか堤さんと一緒に曲が 作りたいという、叶わない夢を見つつ、音楽を楽しめたらと思っています。これからも堤さんの音 楽が色々なアニメなどで聴けるのを楽しみにしています』
堤 本当に、音楽って自分にとって楽しいということが大事だと思います。
劇伴の作曲に関わっていると、音楽をやることで、日記をつけるみたいに自分の人生を振り返るようなところがあって楽しいですね。趣味でも仕事にしても、音楽の面白さは変わらないので、
いつか一緒に曲が作れる時が来たら、楽しい曲を作りましょう!
(後半へ続く)
次回は「音楽業界入門編」! 堤さんがどんな経緯で音楽事務所「ミラクル・バス」に参加することになったのか、劇伴作家になるにはどん な能力が必要とされるのか……そして究極の質問『音大に入らないと劇伴作曲家にはなれない のか?』にも、一つの回答をいただいています!
次回もお楽しみに!